都会の絵の具と木綿のハンカチーフ 〜地方出身者のUターン志向における動機の葛藤と選択〜

1、はじめに

人口の一極集中が進んでいる。2018年の住民基本台帳に基づく人口移動報告(総務省発表)によると転入超過となっている都道府県は、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と大阪府、愛知県、福岡県と滋賀県であり、ほとんどが大都市の所在する地域である。特に東京圏への流入は23年連続となっており、止まる気配はない。これを受けてか、政府は2019年度に新たに「東京23区から地方に移住して起業した場合は300万円、中小企業に転職した場合は100万円を支給する」制度を設けるとのことである(『日本経済新聞』2018/12/05 朝刊)。記事中では、「地方での生活を希望しながら金銭的な負担を懸念して移住をためらう人は多いとみて」の施策としているが、実際にどの程度の効果になるかは未知数である。そもそも地方への移住と一口に言っても多様であり、都内で生まれ育ち生活してきた人であれば、文字通りの「移住」(場合によっては「Iターン」)であるが、故郷から上京し、故郷に帰る場合は、通常、「Uターン」という言葉が用いられる。他にも人口還流現象は「Jターン」、「Vターン」等、その形態によって様々な用語が使われている。本稿では、これらの中で最も理解しやすく事例も多いであろう「Uターン」を取り上げ、その「動機」について考察する。Uターンの動機についての研究は、社会学、地理学、心理学等各方面からなされているが、問題の性質上、どうしても「Uターンを促すためには」といった文脈で論じられることが多い。そのため本論では、結果として「Uターンをしなかった」場合も含め、個別具体的な動機の内容ではなく、結論に至るまでの「動機」のあり方を質的な側面から考察していきたい。なお、本文中の「Uターンの動機」という用語について、先行調査・研究においては「Uターンをした(する)動機」として使用していることが多いが、考察部分においては「した(する)」、「しなかった(しない)」の双方向の意識を含む「Uターンの動機」として使用する。

2、Uターン動機の先行調査

Uターンの動機についての先行研究には、数量的な調査がある。後文における引用の都合上、便宜的に調査ごとに番号(【数字】)をつけて時系列にてまとめる。

【1】1970年に実施の富山県小矢部市還流人口に対する全数調査。「アンケート」・「項目指定方式」とある。(二神:1971)

【2】1976年に社会工学研究所が実施。山形県、石川県、島根県、徳島県、宮崎県の5県の民間有職者、民間新卒者、地方公務員のUターン者を対象とした調査。(社工研:1976)

【3】1991年に日本労働研究機構による秋田県、長野県、岐阜県、大分県、宮崎県の5県で実施。郵送配布郵送回収法。「Uターン希望者」対象の調査である。(日労研:1992)

【4】1995年、1997年、1998年にそれぞれ長野県、宮崎県の2県で行われた男性を対象としコーホートも選定した調査。(江崎他:1999、江崎他:2000、江崎:2002)

【5】1996年に大分県中津江村にて27集落18歳以上の悉皆サンプル調査。(山本:2013)

【6】2003年から2004年にかけての調査で総務省が実施。転入超過が特に顕著な287市町村のUIJターン者を対象。(過対研:2008)

【7】2006年に北広島町16歳以上、2,000人を無作為抽出し、郵送調査で実施された。(山本:2013)

【8】2010年。「入職時・起業時における地域間移動についての調査」。ウェブ調査会社の16歳以上を対象として、スクリーニング調査を実施し対象者を抽出。U・Iターンの実現者と未実現者をそれぞれ5,000人選定し、比較する方法を前提として調査が行われている。 (労政研:2010)

【9】「若年期の地域移動に関する調査」。調査会社に登録している25歳から44歳のモニターを対象とし、スクリーニング調査から出身県定住者、出身県Uターン者、出身県外居住者、地方移住者に割り付けし、本調査では、それぞれ目標回収数に達するまで回収が行われた(計5,000)。(労政研:2016)

【10】2017年実施の総務省の調査。過疎関係市町村(一部過疎市町村を除く672市町村)の窓口に転入届けを提出した本人にアンケート票及び返信用封筒を配布し郵送回収された。 (田調研:2018)

以上がUターンの動機を数量的なアンケートとして実施した調査の主なものであり、数量的な調査の特徴として、【3】は「希望者」対象の調査で未然的であるのに対し、【4】と【8】はUターンの動機に関する設問が「Uターン者」とその「未遂者」であり、その他の調査は、Uターンの動機に関する設問が「Uターン者」で事後的なものであることから、まず対象者の設定に違いがある。また、広範囲にUターン者を抽出することは物理的に非常に困難と考えられるため、どの調査も地域が限定されており、地域的な特徴以上にどれだけの一般性を持ちうるかは明らかでない。

次に、質的に「Uターン」を扱っている調査を見ていきたい。まず、1994年実施の日本労働研究機構の調査がある(日労研:1994)。岐阜県と長野県にUターンした夫婦・既婚男子・未婚男子の計20人を対象に会場にて(指示的)面接法で聴き取り調査が行われた。Uターンを意識した経緯からUターン後の状況まで聴き取りを行なっており、「動機」も含まれている。Uターンを理解するための個別具体的なプロセスを知る上で貴重な調査であり、類型では知り得ない奥行きを持った事例が記録されている。また、「Uターン者」と「非Uターン者」を対象にして主にマーケティング等の分野で使われるグループインタビューを行なった調査もある(山口:2012)。2005年に山口氏は、山形県出身のUターン者および東京大都市圏在住者計27人を6つのグループに分けグループインタビューを実施した。「Uターン者」と「非Uターン者」の意識を比較する上で、画期的な試みである。両者のライフスタイルの傾向を「Uターン者」は「ゆとり中心」、「非Uターン者」は「仕事中心」とし、動機(した、しなかった)についても同様の傾向を前提として論じられている。

ここに挙げた各調査の特徴を踏まえた上で、それぞれにおける調査結果の分析部分を見ていくと、個別の動機の背景や集計結果の傾向、動機の類型化、属性による差異などデータに沿った考察がなされている。ただ、それぞれ「Uターン」を対象とする調査であっても、それぞれ本筋は「動機」以外のところにあるものや、労働環境等、別の主題を持つ中で扱われる「Uターンの動機」であるなど、主論の中の一部として取り上げられているものも多く、詳細な考察は行われていない印象である。

3、先行研究

ここでは「Uターンの動機」を中心としている研究を整理していく。まず、戦前から戦後にかけての人口還流を考察している蘭氏の論考がある(蘭:1994)。蘭氏は、【1】・【2】の調査結果を元に、人口Uターン者を類型する場合に、「Uターン理由(動機)」を基準として「Uターンが地方からの要請なのかどうか」、「主体的に決定されたかどうか」の3点を重要なポイントとして、Uターン者の類型化を行なっている。もう一つの類型に関する研究として【5】・【7】の調査を主催している山本氏の論考がある。氏は著書の中で「付論」として、「Uターンの動機」について自身の行った類型化に再度、性別・年齢別に考察を加えており、中でも年齢別に関して、年配層のUターンの動機の特徴が規範性のある類型であるのに対して、若い世代の動機は選択性が強まった類型であると論じている。(山本:2013)。最後にUターンの意思決定における心理過程についての研究である(武田:2008)。武田氏は、先に挙げた日労研の質的調査(日労研:1994)を題材としてUターンを思い立ってから、実際に転居するまでの心理的な行動を区分しながら説明している。Uターンの下地を職場や家庭の不快な緊張状態にあるとし、不快の根源である現実の自己と理想の自己の乖離を補正する心の動きとして、本人の属性の領域・職場生活の領域・家庭生活の領域を選択肢とする複合的な選択の積み重ね行為を経て、最後は自己の信念がUターンをする拠り所になると結論している。

以上、「Uターンの動機」に関する先行調査・研究は、多方面から行われており、上述した武田氏の心理過程の研究のような質的な分析も存在するが、数量的な調査の結果を用いてそれぞれの動機(理由)に属性等も含めて考察を加えたものが圧倒的に多く、その延長線上に類型化も存在する。これらの数量的な調査から得られる意味的なデータは、表面的な部分がほとんどであり、大まかな傾向に過ぎない。ここからは、こうした表層的な「動機」の特徴ではなく、主体の中で「動機」がどのように存在し、変遷するのかといった場面ごとのあり方について、「認識」・「葛藤」・「選択」をキーワードとして、これまでと異なる「動機」のあり方について見ていきたい。

4、先行調査における動機の語彙と言説分析

Uターンの動機について設問のある数量的調査は地元高校の卒業名簿を利用したものや、自治体の部署を通して対象者を設定しているものが多く、調査方法も様々であるが、定型的な設問を使用し、調査者が設定した選択肢の中から回答するという部分については共通している。一般的にアンケート調査において想定した対象者への質問を作成する場合、選択肢には対象者が選び得る理由を設けるはずである。それは選択肢に設けられた動機(理由)が、調査時点において調査者(観察者)が同時代で認識し、理解している「Uターンの動機(理由)」であることを意味しており、主体に内在する動機ではなく、観察者が理解し、共有するために設定した外在する「動機」、すなわちC.W.ミルズによって提唱された「動機の語彙」に他ならない。つまり、調査者(観察者)の解釈するUターンの主体(対象者)の動機の語彙が選択肢であり、対象者(主体)は自身の動機をその中から選択することで動機は理解され、共有される。このような状況から、調査票における設問とその選択肢を「Uターンの動機」に関する調査者(観察者)ごとの問いと解釈によって構成される「言説」ととらえ、以下に言説分析を行なってみたい。

「言説分析」は、M.フーコーの著書『知の考古学』によって提唱された分析方法である。鈴木氏によって簡潔な説明が行われており(鈴木:2006)、それによると特定の時代に特定の人々が特定の話題に関して表現した内容である「言説」と考察の対象となる一連の言説を含む集合である「言説空間」を主要概念とし、「分析者によって定義された言説空間において、一連の言説間の関係について考察する方法」とまとめられており、同氏は実際に例として「日本的経営言説」の分析を紹介し、結果的に時代的な変容を指摘している。これらを参考に分析の方針を立てることとし、主として「Uターン」という言葉が用いられるようになる1970年代以降の数量的な調査(用語としての「Uターン」は日本社会学会1970年度大会における黒田俊夫氏の発表が初出とされる(岡田:1973))における「Uターンの動機」の言説について精査した結果をまとめた。

類例が限られており、数は少ないが、それぞれ2章の【1】から【10】の調査に対応している。また、先行する「言説分析」の結果は、主として「変容」を見出すものが多いが、本論では、逆の立場として「共通」する部分の抽出を目的としている。

まず、概要の部分で言えば、「Uターンの動機」に関する設問を有する数量的調査を類例収集の条件としている。調査が行われた実年は1970年から2017年と47年の幅がある。2章で述べたように調査方法や対象地域、標本数や完了数も様々でおよそ共通していない。このような中で、共通する部分を詳細に見ていくと、まず、質問文について【2】を除くすべてが、「複数回答」であることが挙げられる(表1)。【2】についても、質問文において「つぎのなかからおもなものを」とことわっており、それぞれの調査者が「動機」について各個人一つではなく、複数あることを想定していると考えられる。

次に、選択肢の部分である。各調査、選択肢の数には大きな差がある。また、複数論点を含意する選択肢やあいまい語の使用、選択肢の積極的・消極的表現の混在などワーディングによる誤差や違いも考慮した上で、個々の選択肢の内容を類型化し、共通する類型をまとめたものが(表2)である。選択肢については、時代による内容の変化が顕著であるが、その中でも内容が共通するものが複数存在する。それがⅰ地元志向、ⅱ都会嫌悪、ⅲ親族配慮、ⅳ職業関係の四つである。言い回しの違い、積極的消極的の違い、類型内の選択肢の重複等も存在するが、これらはすべての調査に共通する類型である。

結果として、その質問文、回答形式(複数回答)の共通点からⅠ:Uターンを意識する動機は各個人一つに限定されるものではないという複数動機を示唆する特徴が見出され、もう一つは、時代の変遷で移り変わる選択肢の内容の中でもⅡ:想定される動機においてⅰ地元志向、ⅱ都会嫌悪、ⅲ親族配慮、ⅳ職業関係は一貫して共通項目として挙がっており、「Uターン」という言葉から一般的に連想される「動機」の社会的な理解と考えられる。

このように専門領域や立場の異なる調査者による時代も対象地域も異なる調査において設問や回答の実際、その選択肢を意味的(調査結果のデータ)にではなく、調査内容についてそれぞれ特徴を持った物質的な事例として類似・相違を検討することから見出された共通する要素については、「Uターンの動機」という空間における社会的認識として成立しているのではないだろうか。本分析では、大規模な調査、引用されることの多い調査で類例を収集できた調査のみを扱っているが、報告書を入手できなかった自治体ごとに行われるような小規模な調査も多数存在するはずである。それらの扱えなかった調査を含めて同様の分析をした場合に、同じような傾向を抽出できるかは今後の課題である。

5、流行歌からのアプローチ

前章にてⅠ:Uターンを意識する動機は各個人一つに限定されるものではない、Ⅱ:想定される動機(理由)の中でもⅰ地元志向、ⅱ都会嫌悪、ⅲ親族配慮、ⅳ職業関係の4項目は時代を越えて存在する「Uターンの動機」という空間における社会的認識として抽出した。以降、これらⅰからⅳについて「中心的類型」と呼ぶこととする。また、類例は少ないが、【4】・【6】の調査では、「Uターンの障害」についての設問もあり、いずれも「動機」同様に、複数回答となっており、選択肢も多くの部分が共通している。このことから「Uターンをしない動機」についても一つに限定されず、複数あるという社会的な認識が存在していると考えられる。ここからは複数のUターンに対する動機が主体の中でどのように変遷していくのかを流行歌を題材として文化社会学的視点(南田:2008)から論じていきたい。

社会心理学を専門とする見田氏は流行歌の特徴として、①民衆によってではなく、民衆に向けて作られたもので、制作者という屈折要因を媒介として心情が反映されるという難点があるとする一方で、②民衆に受動的に享受されるばかりではなく、自らそれを口ずさみ能動的に参与することを通して初めて流行歌足りうるのであり、民衆の心情との照応関係はいっそう濃密なものとなることや③他のドキュメントの「書く」という行為に比べて、「歌う」というはるかに原初的な行為の上にあり、より広汎な人々にひらかれており、日常性により多く密着していること、また、④流行歌は、歌として「流行」しているものであり、すでに大量的現象であることを前提としており、他のドキュメントに見られるような個人に固有の現象であるかもしれないという危険から免れているという長所を列挙し、流行歌はさまざまな制約や限界を持ちつつも時代の民衆の心情のありかを知るための資料としては最も優れたものの一つであると結んでいる(見田:2012)。

①について、次章で取り上げる『木綿のハンカチーフ』についても作曲者筒美京平氏、作詞者松本隆氏は東京の生まれであり、歌手太田裕美氏は埼玉県の出身である(日外:2000)。いずれも東京圏であり、歌詞中のようなストーリーを実体験としている可能性は低く、ストーリーの主人公ではなく、発信者に徹している。つまり、歌詞におけるストーリーはテキストの作成者(作詞者)である松本氏が東京出身者として意識的無意識的を問わず、知識の存在拘束性の中で上京者の類似体験を見聞もしくは想像することによって、作詞の場面で観察者として存在し、社会的現実として「Uターン」についての「動機の語彙」を歌詞中にレトリックとして反映したものである。ポピュラー音楽として社会に還元された「動機の語彙」は、③の原初的な特徴から②のように能動的な参与を生み出しながらオーディエンスに受容され、数量的に大量の共感(承認)を得たことによってヒット曲となった。また、発信者の意図はわからないが、④にて指摘されているように、オーディエンスの中には歌詞中のストーリーに類似する同じような境遇にある多くの母集団の構成員を含んでおり、代表性といった意味では難しいが、(数量的な意味での)ヒット曲であるということが歌詞中の「動機の語彙」が一現象として好意的に裏付けされているとも考えられる。

6、『木綿のハンカチーフ』による動機の葛藤と選択

では、実際に「Uターンの動機」がどのように表出しているのかを見ていく。ここで、便宜的に歌詞全文(歌詞)を引用させていただく(「木綿のハンカチーフ」『2000 BEST 太田裕美』 Sony Music Entertainment (Japan)incを参照し、歌詞中のアルファベットについては後文の都合上、筆者が付け加えた)。

以下、上京(以下、東京のみでなく、居住地以外への移住という意味で使用する)前後の動機のあり方から「葛藤」を経て、「選択」に至る動機の変遷を考察する。前提として歌詞中の「ぼく」は、最終的にUターンを思い止まることになるため、地方に肯定的な場合は「する動機」、否定的な場合は「しない動機」、都会に肯定的な場合は「しない動機」、否定的な場合は「する動機」と理解する。

(1)事前的(潜在的)動機

まず、上京前後における主体の動機の所在である。歌詞中のA、B、F、G、Oがレトリックとなっている。特にF、Oについてであるが、「帰って」・「帰れない」という表現から上京においてUターンを前提としている様子がうかがえる。これは確固たる意志ではなく、漠然とではあるが、Uターンを意識しており、「望郷」・「ホームシック」・「故郷へ錦を飾る」という言葉にも象徴される。また、歌詞中では恋人同士の約束のように描かれているが、事前的動機は、「中心的類型」中のⅲ親族配慮や抽出はされなかったが10調査中8調査に選択肢が存在する「家関係」の動機についてそれ自体が時限的な要素を持っていることから、容易に事前の留意点として想定されるものである。そのため、意識的無意識的を問わず、よほど故郷にマイナスのイメージがない限りは、上京する主体のUターン志向に影響を与えていると考えられ、反対に漠然と「Uターンしない」と否定的な意識を持っている場合も想定される。つまり、歌詞中の肯定的な意識の上では、出ていく者・見送る者、双方が「いずれは帰る(りたい)、帰って来る(来て欲しい)」という双方向の潜在欲求による慣習的な合意をしている上での動機のあり方である。

(2)心象的動機

D、E、I、L、Mがレトリックとなっており、歌詞中では地方にとって肯定的であり、都会に対しては否定的な内容となっている。視点を変えれば、地方に止まる動機とも言え、地方に残った者から指摘される形をとり、主体に地方から訴えかける内容となっているが、両方を知る主体にとっても都会との比較で程度の差はあれ意識する内容である。肯定される地方の目線となれば対立する世界(都会)をマイナスにイメージし、否定される都会の目線になれば対立する世界(地方)をプラスにイメージしており、結果として、地方のイメージは対比的、婉曲的に表現されている(表3)。「中心的類型」の中ではⅰ地元志向に当たるが、これは対象がUターン実行者・希望者による動機であることからであり、非実行者等主体の立ち位置によっては、もちろん内容が異なるはずである。プラスマイナスを問わず、現実世界から対立する世界を意識したイメージによって形成される動機であり、次の現実的動機との「葛藤」が起こる。

(3)現実的動機

心象的動機と対立し、「葛藤」の対象となる。レトリックとしては、C、H、J、K、Nであり、主体が経験するありのままの都会であり、現実である。歌詞中ではUターン非実行者であるため、魅力的な都会として肯定的であるが、一方で、実行者・希望者が対象である「中心的類型」のⅱ都会嫌悪も否定的な現実的動機に当たり、主体の立ち位置によって内容が異なっており、この点は心象的動機と同様である。主体の現実を反映する動機である。

(4)動機の選択

上京に伴って意識する「事前的動機」から日常生活の中で「心象的動機」と「現実的動機」の葛藤を経て、最終的な「選択」をすることになる。歌詞中では、Oぼくは帰れないという結論に至ることになるが、これはあくまでその時点での「選択」であり、その後も、「葛藤」は続くことになる。すなわち、個々のライフステージにおいて「心象的動機」と「現実的動機」は変化し、肯定的・否定的という立ち位置も決して一律のものではなく、時々の優先度・比重によって断続的に「選択」を求められる場面が発生するはずである。

先に挙げた武田氏の研究(武田:2008)では、「Uターンの心理過程」として、きっかけとなる出来事から現在と理想の自己を比較し、否定的な自己評価に至った場合に「葛藤」が始まり、Uターンの意向が生じ、3つの領域を選択肢とする複合的な選択の積み重ね行為を経て、最後は自己の信念を拠り所とする過程を提示していた。これについて本論では「自己の信念を拠り所」とする決定に異論はないが、「きっかけとなる出来事」についても自身の多数ある動機の一つと考えており、Uターンの意向は漠然としたものではあるが上京時に設定している。現在と理想の自己の比較は「心象」と「現実」の葛藤そのものであり、それらは「選択の積み重ね行為」という細かい選択が繰り返されるのではなく、同時に複数存在する「する動機」・「しない動機」の中で「葛藤」され、最終的にその場面における一つの「選択」に至るという変遷を辿るのである。

7、おわりに

以上、「Uターン」の動機について考えてきた。前半部分では、過去の数量的調査を対象に言説的分析を行い、Uターンの動機は複数存在するという認識、その動機には「中心的類型」があり、それぞれⅰ地元志向、ⅱ都会嫌悪、ⅲ親族配慮、ⅳ職業関係であることを指摘した。後半部分では、流行歌を選び、「木綿のハンカチーフ」を題材として、上京した時点で事前的(潜在的)動機が存在すること、その後の都会での生活の中で主体の立ち位置によって変化する多数の「心象的動機」と「現実的動機」の「葛藤」、すなわちイメージと現実の対立から優先度・比重によって「選択」が行われる過程をまとめた(図1)。また、ここで言う「選択」は、その時点での「選択」であり、生活や環境の変化によって時々の動機の中で断続的に「選択」が求められることも指摘した。

最後に、「Uターン」に関する論考で言及されることの多い、「Uターンを促すためには」について私見を述べて結びとしたい。まず、大前提として中心的類型に挙がるⅳ職業関係において主体が不自由しないことである。他の類型と比べても現実的で生活に直結する部分であり、Uターンを選択する上での比重がかなり大きいであろうことは疑いない。

次に本論では、「イメージ」と「現実」の葛藤という構図で動機を見てきた。Uターンにおいて肯定的否定的は一定ではないものの、「現実」は常に都会であり、「イメージ」する対象は地方ということになる。地方といっても主体にとっては故郷であることがUターンの特徴であり、故郷は過去に主体にとっての現実であったはずである。

この「イメージ」になる前、主体にとって故郷が「現実」である時点が非常に重要な意味を持っていると考えられる。多くの地方が取り組む町おこしや移住誘致の施策などは、他所からのイメージを向上させ、その地方を好意的に認識させることを目的の第一歩とするものであるが、「Uターン」として見た場合、それはすでに後手に回った対応である。同じように「イメージ」に働きかける場合でも、上京するまでの間生活した「現実」の故郷が非常に好意的なものであった場合、上京後の「心象的動機」が肯定的になるであろうことは想像に難くない。いわば事前の動機創出こそがUターンにおいて差をつけるはずである。多数ある中での一つの動機への働きかけに過ぎないが、将来のUターンを見据えた取り組みである上に、実際には現住生活者の要望に応えるといった現実的な側面を持ち、一挙両得な方策となる。求められる施策については、当然、地域ごとに異なるはずであり、そこでは、2章の限られた地域で実施された先行調査をはじめとする地域調査の意味的なデータが活きてくるはずである。

室生犀星は「ふるさとは遠きにありて思ふもの」と詠んでいる。主体が何を「思ふ」のか、ふるさとがどのように「思はれる」のかがUターンにとっての分岐点となる。故郷で過ごした魅力的な思い出とその好意的なイメージこそが、事前的動機に強く働きかけ、「ふるさとおもひ涙ぐむ」Uターン希望者の背中を押すかもしれない。「異土の乞食」となる前に。

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