壁の向こうの内定者研修 〜会社の過去・現在・未来〜
先日、貸し会議室の隣の部屋で内定者研修をやっていた。壁が薄いのか内容が断片的に聴こえてくるが、和気藹々とした雰囲気である。エントリーシートから試験、面接と勝ち上がり、最終的に手にした、内定。喜びも一入であろう。採用する側も予定人数を確保できたという安心感だろうか。気分上々といった感じである。壇上の担当者の言葉にも熱が入り、内定者達も熱心に聞き入っている…のだろう。というのも、僕に聴こえるのは声だけであり、残念ながら内定者達の受講態度を見ることはできないのである。
知らない会社であり、業種も本社・支社かもわからないのであるが、20人くらいの内定者がいそうなことを考えれば、それなりの規模なのだろう。断片的に聴こえてくる内容についてふと思った。未来の話がやたら多くないだろうか…。まったく関係のない会社に対して申し訳ない限りだが、こうなると気になってしまい、ついつい傾聴してしまっている。
性格の悪い10年以上サラリーマンをしているおっさんの戯言と思っていただいて差し支えないが、未来の話が多い会社は内定者にとって少し不安ではないだろうか。余計なお世話かもしれないが、会社には、過去・現在・未来すべてが存在するはずである。創業から現在に至る歴史があり、それを土台として現在の事業が成り立っている。そして、これまで培ってきたノウハウや顧客との繋がりを活かして未来が創造されていくはずである。すべてが重要なことに変わりないが、バランスが大切なのではと思う。
就活中の学生に対しては、過去の実績や将来の展望の話も非常に有意義に違いない。現在のプロジェクト等は守秘義務や入社時には終了している可能性もあるので、可能な範囲で伝えるといった程度のものになってしまうのだろうが、過去の実績は確定した事実であり、未来の計画はどのようなものであっても語ることに支障はなく、伝えやすい内容である。
一方で内定者研修は、すでに入社が決まっており、期日が来れば業務に参加することになる人たちである。このことは、現在が重視され、本当に具体的な内容こそ求められるのではないだろうか。未来を志向することは非常に大事なことであるが、多くの時間を費やして語られる5年10年後のプランは、時の経過とともに簡単に不渡りとなる可能性がある不安定な事柄である。それこそ5年後10年後のプランは、今ここに集まっている内定者達が考えることになるかもしれないし、もう退職してしまい関係のない内定者もいるだろう。穿った見方をする内定者は、きっと「現在の経営や業務内容には魅力がないのだろうか。」と考えてしまうのではないだろうか。
別日に現在の状況について詳しく語っていたのかもしれないし、後日、語るのかもしれない。ただ、断片的に聴こえてくる内容では、具体的な現在の業務内容が皆目見当がつかなかった。内定者というまったくの部外者でもなく、内部の人間でもない、曖昧な立ち位置の相手に対して、担当者はどの程度何を話すのか非常に悩ましいところだろう。かと言って、「5年後、びっくりするほど成長できる」、「10年後は自分のしたいことができる」と語られたても、あまりの具体性のなさに希望ではなく、不安が芽生えるのではないだろうか。実際に入社前後のイメージのギャップで早期に退職してしまったということはよく聞く話である。この、薄い壁を隔てた向こう側の研修が、内定者とその会社にとって不幸な出会いの発端とならないことを切に願っている。