FBに不適切投稿、岡口基一裁判官を2度目の懲戒処分 最高裁大法廷 (毎日新聞 2020.8.26)
この裁判官、著書を読んだことがある。著書と言うよりは、対談集という感じであるが、裁判官と弁護士の立場で裁判における諸々を語り合うもので、普段知ることができない別世界の内容で非常に面白いものであったので記憶している。この度、また懲戒処分を受けたらしい。以前、頻繁に報道されていた時も「あっ、あの本の。」と思ったが、定期的に著書を思い出させてくれる。
【参考】 https://honto.jp/netstore/pd-book_28626554.html
この度の懲戒原因はフェイスブックへのある殺人事件に対する不適切な投稿。この裁判官自身が裁判を担当したものではない。詳しい状況は記事になっていないが、投稿内容を見ると普通に考えて、遺族の心情を傷付ける内容であることは、その通りだと思う。裁判官として、その事件を取り上げることに専門家としての意図があっての投稿かそうでないのかわからないが、法のプロ、エリート中のエリートであり、「表現の自由」の範囲であるとの判断であったのかもしれない。
【参考】 https://mainichi.jp/articles/20200826/k00/00m/040/319000c
1人の裁判官が法の範囲だと理解している(そもそも法に触れると自覚しながらあえて実行している場合、それは裁判官として論外である)事柄に対して、最高裁の裁判官13人が不適切と判断する状況。裁判官は日本国憲法 第76条において「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と規定され、職権行使を独立して行うことができる。「この憲法及び法律にのみ拘束」された上で、裁判官の中で、判断が異なるという結果は、法の番人の中でも法に対する理解の振れ幅が大きいことを示しているのではないだろうか。
【参考】(平成 27 年(ワ)第 30736 号)
http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-031491632_tkc.pdf
ちなみにこの裁判官、懲戒処分は2度目である。2018年10月の前回もフェイスブックへの不適切投稿が原因であるが、こちらの飼い犬に関する民事事件については、話題として取り上げたくなる気持ちもわからないではない。もちろん、「立場上」ということは前提として間違いなくあると思うが、素人的に考えても、あるいは素人であれば尚更、その事件でその判決なのかという内容であり、市民感覚とのズレを知らしめす意味があるのかもしれない。僕はズブズブのど素人で、紛うことなき一般市民であるが、先に挙げた殺人事件の投稿は、被害者遺族に対する配慮をもう少しするべきだと感じるが、この民事事件の投稿は「こんなことになるの?」という驚きでいっぱいであり、問題提起として素直に受け取っている。
医者は人の命を左右する職業であるが、法曹の職は人の人生を左右する仕事だと思う。裁判官によって違う判断があり得るという状況は、裁かれる側にとって非常に気持ちが悪いものではないだろうか。もちろん、そのために三審制となっており、それぞれ審理が尽くされるのだとは思うが、一般人にとって第一審の判決でも心・身体・生活に与える影響はかなり大きいと思われる。フェイスブックの投稿という日常的な行為の判断についても分かれる見解。大きな力を持つ裁判所という組織の内輪揉めの意味は、世間で語られる市民感覚との乖離という状況以上に大きな不都合であり、是正されるべきことである。